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2009年5月

氷砂糖

       手術の後 

     久し振りに実家に帰った

     庭で煙草を吸い 夕食を食べた

     「タバコは止めきらなかったんだ」と寂しそうに父がいった

     瓶に入った半透明な

           長方形の小さな固まり

     何かと聞くと氷砂糖だと母が答えた

     「タバコの変わりにくわえておくと口寂しくないわよ」

     「そうかもね」とぼくは答え 

         氷砂糖を一粒口にくわえた

     甘くはなかった

     懐かしい味がした

     煙草をやめようかと思った

     

 

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    ピンサロの女の子に恋をして

     一泊旅行に誘った

     行きの電車の中

     「私のひいお婆さんは被爆者なの」と彼女がいった

     私は生返事をした

  

     翌日 鳥島に渡った

     崖の上の台地に海鳥が一杯巣を作っていた

     上空にも海鳥がいっぱいだ

     女の子は卵を一つ手にとって抱えた

     「ねえ 私が抱いたら奇形の雛が生まれるかしら?」

     「そんなことはないさ」と私は答えた

  

     突然 爆音がしてヘリコプターが島の近くを通っていった

     軍用ヘリだ

     私は一抹の不安を覚えずにいられなかった

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誕生花

     人は何かを見る度に何かを思い出す

     僕は苺を見る度に君を思い出す

     君が口ずさんでいた『プライド』

     君の横顔

     君の香り

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一人の部屋

 

     君と出会うまでは

     独りぼっちの寂しさに気づかなかった

     一人の部屋の中

     時計の針が進む度に

     君の顔を思い出す

     君と出会うまでは

     ビデオを観ているだけで楽しかった

     一人の部屋の中

     同じシーンを繰り返す度に

     君の唇を思い出す

     君と出会うまでは

     音楽を聞いているだけで楽しかった

     一人の部屋の中

     同じ音楽が流れる度に

     君のぬくもりを思い出す

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ボブ・ディランの息子

     砂浜に車を止めて

     二人寄り添って座った

     カーラジオからはボブ・ディランの曲が流れている

     天に瞬く星の間で 僕らは長いキスをした

     堤防の脇に車を止めて

     海辺まで歩いた

     砂浜に一人座っていると涙がこぼれてきた

     車に戻ると カーラジオからはウォールフラワーズの曲が流れていた

     「ボーカルはボブ・ディランの息子だそうです」

     また新しい一つが始まる気がする

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200本のたばこ

     煙草も恋もセックスもやめられない

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雨やどり

     君とのデートの帰り道

     突然 雨が降り出した

     切妻屋根の軒の下

     僕は君の肩を引き寄せた

     雨に濡れた君の肩

     雨に濡れた君の頬

     雨に濡れた君の髪

     通り雨がやみ 路面に光が差した

     君しか居ないと確信した

     ある夏の午後

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ルーシー

     エチオピアのオルディアイ渓谷

     それは650万年前の地層から現れた

     それは最古の類人猿だった

     それは女性だった

     それには標識番号が付けられた

     頭蓋骨1470

     打ち上げのパーティーの夜

     「彼女の名前は?」と誰かがいった

     バックミュージックにビートルズの

     『ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウイズ・ザ・ダイヤモンド』

 

     「彼女の名前は決まった」と私はいった

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やり直そう

 

     怒っていたから

     小学生の時の修学旅行の写真

     高校生の時の演奏会の写真

     中学生の時の思い出写真

     昔君が祭りにいった時の写真

     昔の君のゴロ寝の写真

     ディズニーランドにいった時の写真

     スピッツのCD

     手作りの小さなマクラ

     四つ切りのプリクラ

     二本の腕輪

     プラスチックの指輪

     宇多田ヒカルのカセット

     手書きのイラストの入った手紙

 

     全部 袋に詰めました

     「やり直したい」といってくれたから

     全部 元の場所に戻しました

     二人の思い出を一杯ふやしていこうね

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ただの器

 

    彼女は映画館で

     もぎりのバイトをしていた

     黒い大きな瞳が印象的だった

     何回目かのデートの待ち合わせ

     彼女のバイトが終わってから

     映画を一本タダで観ようと

     早めにいった

     「日はいい物を見つけたわよ」

     彼女の目がキラキラ輝いた

     「何?」

     彼女は仕切りの下に手を伸ばし

     バッグを探った

     出てきたのは薄い緑の御飯茶碗

     なんでもないただの器だった

     コム・サ・デ・モードが好きな彼女

     不釣合なその器

     彼女はますます彼女が好きになった

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肩までの距離

     冬の公園で

     ベンチに二人並んで座った

     近寄ろうと腰をずらすと

     彼女は腰をずらし少し離れた

     肩を抱けそうで届きそうにない距離

     何回デートをしただろう?

     ベンチに座るたび

     その距離が遠くて 抱き寄せることができなかった

     僕の誕生日

     ベンチに座って 僕はプレゼントを受け取った

     僕は手を伸ばし 彼女の肩を抱いた

     以外と簡単だった

     あんなにも遠く感じた距離が

     勇気がなかったせいだ

     少しだけ二人の距離が近付いた

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無駄な時間

    「時間を無駄に過ごすのはいいことだ」

     数年前に死んだ僕の母方のお祖父さんがよくいってた言葉

     本当の意味が分からなかった

  

     父方のお祖父さんがベンチに座って海を見ていた

     僕は隣に座ってその事を話した

     「わたしには良く分かるよ 君にはまだわからないだろうけど」

      

     僕はまだそれを感じとる事のできる時間の中にはいないみたいだ

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珈琲と煙草

    「珈琲と煙草があれば生きていけるさ」

     学生時代 僕の先輩がいった言葉

     その時カッコイイと僕は思った

     その先輩が交通事故で入院した

     僕は缶コーヒーを持ってお見舞いに行った

     二人で病院の屋上に上がった

     「バコはあるかい?」

     「イライトならありますよ」

     先輩は口の端で笑った

     うれしかった

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能古島

     井上陽水の歌に『能古島の片思い』というのがある

     博多にあることは知っていた

     半年ぶりに東京でデートした翌週の土曜日

     僕は博多まで彼女に会いにいった

     昼間は二人でデートしたが

     夜は一人でホテルに泊まった

     翌日 僕は能古島にいった

     小さな島で さびれかけていた

     海水浴場まで行く時間はなかった

     フェリー乗り場の近くの砂場に腰掛けて時間を潰した

     波の音が絶え間なく聞こえる

 

     君に会いにくるんじゃなかったと思った

     僕の恋は片思いだったと知った

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オー・ヘンリの凧

   五月の終りの月曜日の午後

 

     午後の喫茶店

     アイスコーヒーとグレープフルーツジュース

     「今日は眠むそうだね」

     「O・ヘンリの短編の『凧』がむしょうに読みたくなったって

      一晩中部屋の中を探したけど見つからなくて」

     「一晩中?」

     「一晩中」

     「探してあげるよ」

     「ありがとう」

     六月の終りの日曜日の午後

     午後の喫茶店

     アイスコーヒーとグレープフルーツジュース

     「見つけたよ」

     「よかった 見せて」

     眉間に皺を寄せ本を読む君

     「そうこれ」

     「探すの大変だったんだぜ 都内全部の図書館に電話して

      横浜の市立図書館の書庫にやっとあったんだ

      しかもO・ヘンリじゃなくて サマセット・モームの作品だったし」

     「いいじゃない 勘違いしても」

     君は僕の頬にキスをした

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ライ麦畑で会ったなら

     どこにいっていたの?

     みんな心配したんだよ

     砲台のある丘の上から

     学校の体育館を見ていた

     バスケの交流試合でみんなの歓声が聞こえたよ

     お兄さんは一体何になりたいの?

     ライ麦畑の番人さ

     崖の端に立って子供達が落ちないか見張るんだ

     ほら 『ライ麦畑でつかまえて』って歌みたいに

     あれは『ライ麦畑で会ったなら』でしょ

     それはどうだっていいのさ

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青空

     公園の芝生に

     彼女と二人で寝転んで

     空を見ていた

     雲一つ無い空

     高みを増すにつれ

     深みを増す空の青

     「地球は青かった」

     「何 それ?」

     「むかしのソ連で 初めて宇宙に行った

      ガガーリンが地球を見ていった言葉だよ」

     「ふーん」

     「こうしてると 地球が青いって分かるよね」

     「変なの」と彼女が笑う

     「ねえ 今度 僕の実家にいってくれないか?」

     素直に出てきた僕の言葉

     「それって プロポーズ?」

     「駄目かな?」

     彼女は黙って空を見ている

     どこまでいっても続く空

     「・・・いいわよ」

     青い地球の青空の下だった

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テン・サウザンド・ヴォイス

 

    夕暮れのいつもの時間

     ラジオのスイッチを入れる

     聞こえて来る「テン・ザウザンド・ヴォイス」のイントロ

     陽気なDJ

     僕は珈琲を淹れ始めた

 

     いつもの夕暮れの時間

     ラジオのスイッチを入れる

     「いつも聞いてくれてありがとう

      でもこの番組は今日で終わり

      明日から新しい番組が始まる

      いつもはイントロしか聞かせなかった

      『テン・ザウザンド・ヴォイス』を

      今日は最後まで聞かせてあげよう」

     陽気で悲しげなDJの声

     僕は珈琲を淹れ始めた

 

     いつもの夕暮れの時間

     ラジオのスイッチを入れる

     鼻につく女のDJ

 

     珈琲を淹れる時間を失ったみたいだ

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眠れる美女と屋根のついた橋

     「お祖父さんの時はどうだったんだ?」と王子様はいった

     「それはもう 森を探せば

      いたるところに美女が眠っておりました」と家来が答えた

     「お父さんの時はどうだったんだ?」と王子はいった

     「それはもう 白馬に乗って街を歩けば

      窓際の女の子が喜んで飛び乗ってきました」と家来が答えた

   

     オンボロジープにジーパン姿

     荷台に積んだカメラ用具一式

     「それが今ではこの有様か」と王子様はため息をついた

     「へい」と家来が答えた

     「橋はまだか?」と王子様はいった

     「橋の近くに貴方様を待っている人妻がきっといますよ」

          と家来が答えた

     屋根のある橋が見えてきた

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私を野球に連れてって

     遊園地に行こうと誘ったら

     野球がいいと君は答えた

     芝生のある外野席のデイ・ゲーム

     空が青くて丸い

     硬球が空高く舞い上がりスタンドの中に落ちた

     僕は両手を宙に浮かしたままだった

     どんな気分?

     空をキャッチしたよ

     7回裏に君は唄を口ずさむ

     「何の唄?」

     「なんでもない なんとなく また 野球に連れてってって」

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ピータ・ローラって誰?

     「ピータ・ローラって映画俳優を知ってる?」

     「知らない」

     「アル・スチュアートって歌手は?」

     「知らない」

     「イヤー・オブ・キャットっていう曲は?」

     「知らない。どうして?」

     「今度、ヴォーカル学校の発表会があるの」

     「分かった。

            アル・スチュアートのイヤー・オブ・キャットを歌うんだね。

      歌詞の中にピータ・ローラって名前が出てくるんだ」

     「ハンフリー・ボガートが死んだ朝

      僕はピータ・ローラみたいに酔いつぶれて町をさ迷ったって」

     「ああ それは 役名だよ

      カサブランカの冒頭で店で酔いつぶれてる男の名前さ」

     「ありがとう あなたなら知ってるって思った」

     君からの半年ぶりの電話だった

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ブラックコーヒー

     朝の喫茶店「絵夢」

     ご注文は?

     モーニングセットを2つ

     お飲み物は?

     コーヒー ブラックで

     目玉焼き

     ドレッシングのかかったサラダ

     トースト二枚 バターとイチゴジャム

     ブラックコーヒー

     「そんなにまずそうな顔して飲むなよ」

     「だって あなたがブラックコーヒー好きだから」

     僕は君のカップに角砂糖を2粒落とした

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ただそれだけの話なんだけど

      

     「恋恋風塵」をみていたら

     無人のプラットホーム

     文字盤のない時計

     長針がピッと動いた

     文字盤のない僕の腕時計

     目を離したスキに一分進んでいた

     ただそれだけの話なんだけど

     「アポロ13」をみていたら

     トム・ハンクスが

     分厚い宇宙服の上

     腕時計をはめていた

     月まで行った時計が欲しくなった

     ただそれだけの話なんだけど

     「夏物語」をみていたら

     壁にオアシスのポスターが一枚だけ貼ってあった

     僕は久し振りに彼らのファースト・シングル

     「スーパーソニック」を聴いた

     ただそれだけの話なんだけど

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サラブレッド・カード

     ポケットの中の財布の中の擦り切れたサラブレッド・カード

     ライスシャワー

     二冠馬ミホノブルボンに勝って 菊花賞馬になった

     その根性 美しい栗毛 空を飛ぶような跳躍

     僕は彼が好きになった

     彼の単勝馬券を買い続けた

     3回喜び

     あとはよくやったと褒めてやった

     でも 復活の兆しが見えてきた

     第36回宝塚記念

     彼の姿が3コーナーで消えた

     予後不良

     それ以来競馬は止めた

     サラブレッド・カードだけが財布に残った

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誕生日

     ダンスフロアーのあるバー

     「Vacation」が始まって

     君はフロアの一番前で踊っている

     あんまり上手くはないけどね

     君は腕を振りながら戻ってくる

     フロアーが暗くなり

     花火の輝くカクテルグラス

     「あれは 何なのかな?」

     「誕生日の人はお店からプレゼントしてもらえるの」

     生バンドの演奏する

     「Happy Birthday To You」

     「あんなの 恥ずかしいよな」

     「あなたの誕生日は?」

     「・・・今日だけど・・・」

     君は右手を上げてウエイターに合図を送った

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ライク・ア・ガールフレンド

     あの頃 君はアルバイトへの行きかけ

     アスファルトの裂け目を踏まないように

     気をつけて歩いていた

     無事にたどり着けたら

     素敵な彼氏に会えると信じていたね

     通りの向こうで苺売りの声

     君は窓辺べに頬杖ついて

     青いリンゴを頬張っていた

     「泳ぎに行かないか」と声をかけたら

     億劫そうに でも

「行くとするか」って答えてくれたね

     北の町に嫁いだくせに

     寒いのは嫌だといって

     今 僕は君の家の窓の下

     車の窓から首がねじ切れそうなほど顔を出して

     「泳ぎに行かないか」と声をかけたら

     億劫そうに でも

「行くとするか」って答えてくれた

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朝 起きたら

     朝 起きたら

     僕は「おはよう」といってみる

     楽しい時も 悲しい時も

     寂しい時も 嬉しい時も

     朝 起きたら

     私はいつも

     ドラえもんの『どこでもドア』が欲しいと思う

     楽しい時も 悲しい時も

     寂しい時も 嬉しい時も

     朝 起きたら

     私はいつも朝食を作る

     楽しい時も 悲しい時も

     疲れた時も 嬉しい時も

     愛する子供とあなたのために

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ロバート・キャパとコーネル・キャパの会話

     「おい 起きる時間だぞ! 全くお前は怠け者なんだから」

     「兄さん 今日もバレエ教室かい? かわいい娘を紹介してくれ」

     「お前は戦場にでもいってきな

           どうせろくな写真もとれないんだから」

     「今日は何月何日だい? 兄さん」

     「6月6日だよ 日付も忘れたか?」

     「いけね オマハ・ビーチにいかなくちゃ

           とびっきりのスクープがあるんだ」

     「いってきな どうせ ろくな写真はとれやしねえんだから」

     「ああ 出かけてくるよ 午後には帰ってくる」

     

     そして 8月16日の朝

     「おい 起きる時間だぞ!」

     「もう起き上がる必要はないよ 戦争は終わったんだ」

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アフリカの神話

     村の長老はいった

     「夜空で一番輝く星はシギトロという それは宇宙の中心」

     僕の頭上にはシリウスがあった

     「その星の横にポトロという星があるそれは 

            とても小さくて眼には見えない」

     僕はシリウスを見つめた

     「ポトロはシギトロの回りを 50年かけて回っている」

     僕の年齢はまだその半分を越えたぐらいだ

     「ポトロはサガラという重い金属で出来ている

 サガラは私らの手には入らない」

     「地球上には存在しない?」

     長老はゆっくりと首を縦に振った

     「ポトロにはアンマとノンモが住んでいて

アンマはノンモに似せて人間を作った」

     「それはホント?」と僕は訊いた

     「本当だとも」

     僕は遠い星 シリウスを見つめた

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ハワイのクリスマス

     赤いTシャツ 赤い半ズボンのサンタクロース

     トナカイは?

     服が脱げないから きっと暑さでへばっちゃたんだよ

     へばっちゃうって?

     疲れて家で寝てるんだ

     どうやってきたの?

     スロウ・ボートできたんだよ

     プレゼントは?

     貰ってきてごらん

     テーブルの上にはクラウド・シュガー

     これはなに?

     雪のかたまりだよ

     たべてもいい?

     ちょっとだけ齧ってごらん

     あまい あまい ゆきって あまーい

 

     お父さん結婚していいよ。来年は新しいお母さんと一緒にこよう?

     ありがとう

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バス

     「もうバスには乗らない」

     娘は幾度となく繰り返しいった

     「母に会いに行くか?」と私は尋ねてみた

     車の助手席に娘を乗せてドライブに出かけた

     山奥の曲がりくねった道

     そこだけガードレールがねじきれていた

     ダムの湖水の縁にバスの残骸は残っていなかった

     私は花束をダムに向かって投げた

     「お母さんに会えたかい?」

     娘は私に抱きついた

     涙を流していた

   

     「バスに乗って帰る」と娘はいった

     もう泣いてはいなかった

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チューリップ

     姉とは昔から一緒に遊んだ記憶がない

     年が離れていたせいだ

     姉は『チューリップ』という名前のバンドが好きだった

     三枚のレコードを残し 街の学校の寮に入った

     四枚目からは僕がアルバムを買った

     僕が街の学校に通うようになった時

     姉はもう幼稚園に勤めていた

     高校三年の夏のお盆休みに帰省した

     町に戻る時 姉だけが僕を送ってくれた

     バス停でバスを待っていると

     「前を歩いてみて」と姉がいった

     僕は少し緊張して姉の前を歩いた

     「男の人って 誰でも歩く時 ガニマタになるのね」

     僕はガニマタじゃないと否定した

     姉は笑うだけだった

     一週間後 姉が結婚することを知った

     ガニマタで歩く旦那だった

     『チューリップ』のアルバムは全部そろって

     今でも実家に残っている

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静かな夜

     アパートに戻って

     コタツに潜り込み

     君からの手紙を読んで

     君にもらったマフラーを抱く

     テレビもつけず

     ラジオも聴かず

     君からもらった本の背表紙を見つめる

     時折 車のエンジン音が遠ざかる

    

     静寂 静寂

   

     静かな夜の静かな生活

     目覚し時計の音に気がつき

     時間の流れを目で知った

     心がゆっくり流れている

  

     静かな夜の静かな生活

     こんな夜があってもいいだろう?

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